教育コーチのGです。
第11回徒然読書日記は『暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで(著者:サイモン・シン)』です。
シュリーマンの著書である「古代への情熱」を読まれたことがあるという方も多いと思います。「古代への情熱」はまさに、古代への夢と情熱があふれた素晴らしい書でしたが、この「暗号解読」は「古代から未来へ到る情熱の書」といったところでしょうか。
訳者あとがきで、著者であるシンのことを【専門家にとってさえ込み入った内容を、ずぶの素人にもわかりやすく、しかも単に上っ面をなでるのではなく、ずっしりと手ごたえを感じさせるように書ける】と評しています。
本の題とその太さ(493ページ)から「何やら難解そうな本」なのかなと思いきや、物語としても大変面白く、一気に暗号・古代文字の世界に引き込まれていきます。
まず、暗号を過信したがためにその命を奪われた、16世紀のスコットランド女王であったメアリーの物語から始まります。囚われの身でありながら、自分自身の支援者たちと連絡を取り合い、イングランド女王であるエリザベスを亡き者にしようと画策をしていたメアリーでしたが、外部とやりとりをしていた暗号文書を解読されてしまい、その結果処刑されてしまいます。
暗号は基本的に、転置式暗号と換字式暗号とに分かれます。転置式暗号とは並べ替えの暗号のことであり、換字式暗号とは文字を他の文字に入れ替える暗号方式です。
例えば、「きよういくこちんぐ」という平文(暗号化前の文書)を転置式暗号で暗号化すると「うきよこいくぐちん」という暗号文が得られます(もちろんこれは一例)。また、同様に換字式暗号で暗号化すると「されきかしせなえじ」などとなります。
メアリーの使用していた暗号は、一種の換字式暗号であったようで、頻度分析(使われている言語がわかっていれば、文章中に出てくるそれぞれの記号の割合を測定することにより、それが平文でどの記号を表しているのかが分かる)という暗号解読の定石を用いることにより、割合簡単に解読されてしまったようです。
このように、暗号の歴史は、暗号作成者と暗号解読者の戦いの歴史でもあります。
また、第2次世界大戦でドイツが使用した暗号機である「エニグマ」が、その構造から暗号化のシステムまで、大変詳しく、しかも臨場感たっぷりに描き出されています。完璧かと思われた「エニグマ」が、実はイギリスによって解読されており、そのことが戦況に大きな影響を与えていたこと。さらに、最大級の国家機密であったことから、戦後も解読がなされていたことがひた隠しに隠されていたことなど。
この次には、古代文字の解読にその人生を捧げた多くの人々を、そのエピソードとともに紹介しています。エジプトのヒエログリフ、ロゼッタストーン、シャンポリオン、クレタ島の線文字B、ホメロスのイリアスとオデュッセイア、ヴェントリスなど。古代へのロマンがフツフツとわき上がってきます。
最後は、現在でも使用されているDES暗号やRSA暗号、さらには未来の暗号である量子暗号などが詳しく紹介されています。
これらの暗号には、その暗号を解くキーとなる「鍵」が存在しますが、その「鍵」をやり取りするときに盗聴されるというジレンマがあります。両者が「鍵」を知らなければ暗号は解けないが、暗号化するための「鍵」を相手に伝える際に盗聴される恐れがあります。この問題を解決したのがRSA暗号です。RSAとは、その暗号を発明したリヴェスト、シャミア、アドルマンの頭文字をとったものであり、次のような例えを使って解説されています。
Aさんは手紙を箱に入れてその箱に錠をかける。そして、その箱をBさんに送る。途中で第三者の手に箱が渡ったとしても、錠を開ける「鍵」がないため手紙を読まれる心配はない。そして、箱がBさんの手に渡ったとしよう。ところがBさんも「鍵」を持っていないため手紙を読むことはできない。ここで、Bさんは自分の錠をその箱にかけて、Aさんに送り返す。Aさんは送り返された箱についている自分自身の錠を自分自身の「鍵」で開けて、Bさんに再度送る。そして、届いた箱についているのは、Bさん自身の錠であり、Bさん自身の「鍵」でその箱を開け、Bさんは無事手紙を読むことができるのである。
これが、RSA暗号の概念ですが、実際は「一方向関数(素数を用いたモジュラー関数)」「公開鍵と秘密鍵」などがキーワードとなる、大変難解な暗号方式です。また、現在では、署名方式としてインターネットでも広く利用されている暗号です。
悔しいことに、この本の素晴らしさを100分の1も伝え切れていません。ぜひ、シュリーマンの「古代への情熱」と併せて「暗号解読」を手にとって読んでみてください。