教育コーチの徒然なる読書日記9

教育コーチのGです。

 第9回徒然読書日記は『こころゆたかに生きる(著者:林覚乗)』です。

 著者の林覚乗さんは、福岡県にある南蔵院の第二十三世住職であり、「出会う人に明るさを与えられる人間でありたい」を信条に、全国各地で公演を行っているそうです(あとがき)。

 この本には、さまざまな人々のエピソードとともに、林覚乗師の深く温かい思いが綴られています。

 「かけがえのない命を生きる」として、ある女子高校生のエピソードが次のように紹介されています。

 この女子高校生(A子ちゃん)は、生まれた後の小児まひが原因で足が悪かったそうです。A子ちゃんが3年生のときの水泳大会、そのクラス対抗リレーの選手を決めるときに、同じクラスのいじめっ子が意地悪く、泳げないA子ちゃんを選手にしてしまいました。

 家に帰って、いつもはやさしいお母さんに泣きつきましたが、

 【「おまえは、来年大学に行かずに就職するって言っているけれど、課長さんとか係長さんからお前ができない仕事を言われたら、今度はお母さんが『うちの子にこんな仕事をさせないでください』と言いに行くの。たまには、そこまで言われたら『いいわ、私、泳いでやる。言っとくけど、うちのクラスは今年は全校でビリよ』と、三年間で一回くらい言い返してきたらどうなの」】と言われます。

 そして水泳大会の日、水中を歩くA子ちゃんに対して、わあわあと奇声や笑い声が聞こえてきます。

 そのとき、一人の男の人が背広を着たままプールに飛び込み、A子ちゃんの横を一緒に歩き始めました。

 【それは、この高校の校長先生だったのです。「何分かかってもいい。先生が一緒に歩いてあげるから、ゴールまで歩きなさい。はずかしいことじゃない。自分の足で歩きなさい」と励まされた。】

 一瞬にして笑い声は消え、みんながA子ちゃんを応援し始めた。

 このエピソードにたいして、林覚乗師はこうまとめています。

 【A子ちゃんがどんなにかわいそうだと思っても、お母さんが代わりに泳ぐことはできないし、校長先生も変わりに泳ぐことはできないんです。ところが、私たちは、ともすると絶対的なものと比べて劣等感を持ったり、優越感を持ったりするんです。一人ひとりが自分の命の大切さに気がついて、その命を、この世に還元して生きることを大切に考えるべきだと思うのです。】

 教育コーチングでは、コーチの得る究極の成果を「クライアントの自立」であるとしています。クライアントが何か問題を抱えていたとしても、コーチがクライアントの代わりに何かをすることはできません。コーチは「人は自分の中に答えを持っている」との信念のもとにクライアントと関わっていき、クライアントが自分自身の力で乗り越えていく支援をしていくだけです。教育コーチングのあり方は、林覚乗師の思いにも通じるものであると感じています。

 紹介されているエピソードをもう一つ。

 北海道での出来事です。終電に飛び乗ったある中年男性が、乗車券を車内で買おうとしたとき、財布も小銭入れもない。途方にくれたが、正直に車掌さんにそのことを伝えました。ところが、この車掌さん。虫の居所が悪かったのかどうか、許してくれません。次の駅で降りろと言ってくる。次の駅で降りても家に帰る手段はありません。ホームで寝るには北海道の夜は寒すぎる。

 困っていると、横にいた同じ年格好の中年の男性が回数券をくれました。お礼をしたいからと、名前や住所をたずねてもニコニコと手を振って答えてくれません。なぜ教えてくれないのかと文句を言ったら、

 【「実は私もあなたと同じ目にあって、そばにいた女子高校生にお金を出してもらったんです。その子の名前を何とか聞き出そうとしたけど教えてくれない。『おじさん、それは私のお小遣いだから返してくれなくて結構です。それより、今おじさんがお礼だと言って私に返したら、私とおじさんだけの親切のやりとりになってしまいます。もし、私に返す気持ちがあったら、同じように困った人を見かけたらその人を助けてあげてください。そして、またその人にも困った人を助けるように教えてあげてください。そしたら、私の一つの親切がずっと輪になって北海道中に広がります。そうするのが、私は一番うれしいんです。そうするようにって私、父や母にいつも言われてるんです』と私に話してくれました」】

 日本には「恩送り」という考え方が古くからあります。この言葉は江戸時代にはすでに使われていたようですが、親切をしてくれた人に対してその恩を返すのではなく、第三者に対してその恩を送っていくことにより、善意が広がりをもっていくというものです。この恩送りを題材にした「ペイ・フォワード」という映画をご覧になった方も見えると思います。

 私もこれまで本当に多くの人にお世話になってきました。また、ほとんどの場合、その恩をお返しすることが叶わぬままになっています。
 ですから、自分が受けた恩を私も次の世代に送っていこうという思いで、教育に携わっていますし、教育コーチングのトレーナーとしての活動も行っています。

 今、ふと次の言葉が頭をよぎりました。

 「明日からを7回言うと一週間になり、来週からを4回言うと1カ月になる。
  来月からを12回言うと1年がたち、来年からを数十回言うと、私たちは灰になる」

3 thoughts on “教育コーチの徒然なる読書日記9”

  1. キヨシです。
    私も北海道のエピソードのどちらの立場も
    体験しました。
    困っている所を助けていただいて、今度は
    自分がそういうチャンスがあり、助けること
    ができました。
    最近は、人と人との繋がりが希薄と言われる
    昨今ですが、なかなかどうした・・・。
    人間もまだまだ捨てたもんじゃないかもしれない。

  2. Gさん、ありがとうございます。
     
    Gさんの教育に携わる人として、
    また教育コーチングのトレーナーとしての
     
    あり方に感動しました。
     
    そして、そんなGさんと一緒に
     
    教育コーチングを学び活動していけることを
     
    とても嬉しく思い、また誇りに思います。
       ありがとうございます。
     

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